1人の42年、23人の42年

リビアの最高指導者カダフィ大佐が死亡した。「ネズミどもを引っ捕らえろ」。大佐は反体制派のデモが始まったとき、国営テレビを通じてこう叫んだが、それから8か月。最後はもみくちゃにされ、大声でわめかれ、血だらけになって殺害された。1月に北アフリカのチュニジアで起こった政変が、瞬く間に中東諸国に広まり、2月にはエジプト大統領を追い出すなど、ドミノ倒しのように民主化運動の火が燃えた。この「アラブの春」はリビアにも波及し、独裁政権はついに崩壊した。

最初にテレビの報道で見た顔から血を流し、群衆にもみくちゃにされている男性が、かつての最高指導者とは、すぐには信じられなかった。これまでテレビで見る大佐は、帽子をかぶり胸を張った勇ましい姿ばかりであったから。排水管に隠れていたところを引きずり出されたようだが、どこかイラクのサダム・フセインと似通っている。

27歳でクーデターに成功し、その後42年間、憲法も議会もない国に君臨し続け、弾圧された死者は1万人とも、3万人とも言われる。ということは、余りに多くてはっきりしないということだろう。それにしてもリビアの最高指導者で最大実力者であるカダフィは大佐だが、大将や中将、少将はいないのか、どうなっているのだろう?

42年前の1969年、大佐がクーデターで国王を追い出したその頃、我が国では学生運動が激しく、東大安田講堂で多くの逮捕者が出た。私自身、まだ20歳代で、教員になって数年しか経っていなかった。当時の首相は佐藤栄作氏で7年半在任し、戦後の内閣総理大臣の中で最も長期政権を維持した。以来我が国では首相が23人代わった。我々日本人は、総理大臣23人の名前をどれだけ言えるだろうか。

一方、大佐は42年間も国の権力を独り占めし、リビアという国を思い通りに動かした。実に長い独裁政治。1人が長きに渡って権力を握り続ける独裁は、金と暴力にまみれ必ず腐敗し国民は困窮するもの。そんなことを考えれば、1人が42年も政権を握っているより、まだ23人の42年の方がましか。もっとも1年やそこらで首相が交代するのは論外だろう。1人で42年は悲劇であり、1年やそこらも悲劇、いや喜劇。

勝利した反体制派は歓喜しているが、「カダフィ後」の新しい統治の姿はまだ見えてこない。憲法も議会もなかった国を新たに整えるのは容易ではない。これからが、本当の意味での春がやって来るかどうかである。

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