イヌの介護~パート2~

我が家の老犬ハリスは、人間にたとえれば90歳ぐらいか。昨年後半からは、さらに衰えが目立ち、自分でハウス(犬小屋)になかなか入れない。体の自由がきかないようで、ハウスの前でじっとしていたり、庭で座るでもなく、立つでもなく、腰を落とした中腰のような不安定な格好でじっとしていることが多かった。ことに後ろ足が弱っている。ある時は、ハウスに上半身を入れ、下半身は外に出たまま眠っていた。耳は、ほとんど聞こえず、視力も少し衰えている。認知力も衰えているようだ。昨年の12月、寒いので玄関に入れてやった。

年末の31日、ほぼ立てなくなり、ドタンと横倒しに倒れる。これはいかん。明日は正月。獣医院も開いていない。いくら歳だからといっても、このまま放置はかわいそう。急遽、動物夜間救急センターへ車で連れて行った。病院に着いたのが、まもなく年が変わろうとする午後11時40分。待合室には、患者ならぬ患犬、患猫が10匹はいたろうか。それに付き添う保護者(飼い主)が10数人。雑種は我が愛犬のみで貴重な存在。その後も、入れ替わり立ち替わりペットが飼い主に連れられてやってくる。最も重体なのも我がペット。他の保護者(?)は我が愛犬の状態を複雑な顔で見ている。獣医師は数名いたが、それでも1時間余り待った。歩けないので、診察室へも抱いて入る。

帰宅したのは、元旦の午前2時半。家の前は初詣の人たちで賑わっている。“正月三が日、もたないな”と思った。こいつとも別れの刻がやってきたと感じた。玄関にシーツを敷き詰めたりして寝かす。しかし、しんどいのか、体が自由にならないのか、横になることが出来ず、玄関の所で、中腰のままじっとしていたり、よろめいたりしていた。うまく横になれないので、時には横にしてやった。

糞の始末の紙や水を入れたペットボトルを持って大小便のため外へつれて行くが、弱弱しく極めて遅く歩く犬に、通行人も振り返るほど。100メートルほどしか歩けず、しかも後半は抱いて帰る。体重は9kg程で小型に近いので助かるが。食事も、あまり食べようとしない。正月は、なんとか持ちこたえた。かかりつけの獣医院へ連れて行くと、心臓が弱くなっており、血液循環も悪く、このため足などに軽いしびれがあるはずとのこと。朝夕、一錠ずつ餌に薬を入れている。

奇跡の回復なのか、今では以前よりは歩ける。何かの拍子によろめいてこけると、すぐに起きあがれない。時には、こちらを見て、起こしてくれと言わんばかりの目をするので、「はい、起きやぁ」と言いつつ、起こしてやる。最近は、暖かくなってきたので、前栽に離している。先日も、見知らぬ人が、「去年から見ないから、どないしたんかと心配してましてん」と、私に話しかけてきた。「寒いので、中に入れてましたので」と。「これで安心しましたわ。元気でおりや」とイヌに話しかけてくれた。もちろん前栽といってもごく狭いもので、まさに猫の額でイヌがうろついている。食欲もある。しかし、食べようとして食器に辿り着くのが、これまた大変。体が思うように動かない。食器に前足を突っ込んだりして、しかもその足をすぐには抜くことが出来ない。餌を食器の外にこぼしたりする。落ちている餌を、私の掌に乗せて口へもっていってやると、間違って私の指をかむ。“オイオイ、それは私の指やがな。食べるもんと違うがな”。今日も、のろのろと庭を歩いたり、伏せのかっこうで、時に中腰の不安定な姿勢で、じっと何かを考えている。自らの人生ならぬ、犬生を振り返っているのであろう。

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