大阪が走る

 10月末の日曜日の朝、地下鉄はいつもと違って大勢の乗客が乗っている。皆が一様のスタイル、服装。そして、一斉に森ノ宮で元気よく降りていき、車内は一挙にガランとした。一昨年から始まった大規模市民マラソンである。チャリテイマラソンとしても定着した。国内最大規模の大阪マラソンで、3万人を超えるランナーが浪速の町を走り抜けた。大坂城公園前の道路はランナーで埋め尽くされたことだろう。新しい大阪の祭りでもある。

 3万人の定員に15万人を超す申し込みがあったという。日頃から鍛えている知人も参加した。3万人というと、号砲が鳴って全員がスタートラインを切るまで30分はかかるのではないだろうか。先頭がスタートしても、後方の人はじっと待っているか、その場で足踏みをしているという。私なら待っている間の足踏みで疲れてしまい、スタートラインを切る前に棄権という珍事が発生したことだろう。

 さて、秋の深まる大阪城公園をスタートし、御堂筋、中之島、京セラドーム大阪、道頓堀、難波、通天閣、住之江公園から南港へ。大阪の名所というよりも浪速のシンボルをひた走る。1万人のボランティアと沿道の約125万人の観客が織りなす一大イベント。思い思いの姿が観衆の目を引く。なかには奇抜な格好の人もいる。あの姿、飾り付けで42.195㎞を走るのだろうか。それはそれですごい体力ではないだろうかと、逆に感心してしまう。沿道からは関西弁の声援に、音楽の演奏、ダンス、よさこい踊りなどでランナーを励まし、さらには、大阪名物のたこ焼きなど、さまざまな食べ物、飲み物も登場するおもてなし。まさに大阪。大阪マラソンのための企画、運営は想像に難くない。

 ところで、大きなマラソンの魁ともいうべきものに青梅マラソンがある。30年程前に勤務先の同僚が出たことがある。彼はそのマラソンに参加したことを我々に黙っていた。ところが青梅マラソンを報じる週刊誌に、走っている一群の中に彼が写っていたことから、事が露見したという楽しい思い出がある。でも、42.195kmを走破するということは大変なことである。フルマラソンの完走率95.1%というのも凄い。私など、ほんの10分ばかり走ったら息切れしてくる。体力のない者からすれば、まさに驚嘆である。24時間テレビでも、ランナーとしては全くの素人である芸能人が走っている。練習すれば走られるものなのだろうか。

 この大阪マラソンの経済効果は大変なものだろう。地下鉄の乗車券だけでも大きな収入。宿泊、観光、大阪PRの期待もできる。関西では神戸マラソンが今月、奈良マラソンが12月に開催され、そして来年2月には京都マラソンが予定されている。今後、参加者の奪い合いになるのではないだろうか。関空、伊丹、神戸空港での客の奪い合いと、どことなく似ている気がしてしまう。

 なんといっても大阪城に集まったランナーは3万人。彼らに陣笠、槍、刀を持たせれば、大阪秋の陣である。さすがの太閤さんも、400年余り後に3万人のランナーが思い思いのスタイルで城に集合するとは想像もしていなかっただろう。現代版大阪秋の陣は平和と繁栄、そして健康の象徴である。

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